内容メモ
一
主人公の画工は山道を歩きつつ、わずらわしい人の世から離れた清々したゆったりとした理想郷を空想する。
二
峠の古びた茶屋で雨宿りしつつ、婆さんから那古井の嬢様の噂を聞き、興味を持つ。
三
宿で寝ていると、夜中に女の声を聞く。また夢うつつでいるときに、女が部屋に入ってきたように思う。翌朝は湯から上がると、誰かから肩に着物をかけられる。振り返ると女が立っている。
四
部屋で退屈しているところに女が来て話をする。女は物怖じせず、言いたいことを言う性質らしい。機知もある。
五
画工は床屋で女の噂を聞く。床屋が言うには奇行癖のある女には用心して近づかぬが良いという。
六
画工は絵を描くのをやめて詩をつくる。そこに振袖を着た女が姿を見せる。
七
画工は湯に入る。あとから女が入って来る。
ミレーのオフェリア、裸体画の話。
八
画工はご隠居に茶をご馳走される。他には、和尚、若い男(久一)が同席している。久一は招集されて近々戦争に行くという。
九
画工が小説を読んでいると女が来る。小説の読み方について語り合う。自分が身投げして水に浮いているところを描くようにとも言う。
十
鏡池に行く。先日、峠で会った馬子が通りかかり、昔この池で身投げがあったという話を聞く。
十一
画工は夜の散歩をし、寺で和尚と話す。
十二
画工は写生に行く。男と女があっているのを見る。女は男を見送ってから画工に近づき、今のは元夫だという。
十三
みなで、久一を駅まで送る。
動き出した汽車の中に、元夫の顔を見つけた瞬間、女の表情が変わる。
感想
画工の語る蘊蓄は、著者の考えとほぼ重なっていそうであるし、読んでいておもしろい。非人情という立場もおもしろい。
ただ全体を通して読んだ時に、最後の場面が突出し鮮明になっているのを思うと、非人情は感情をより鮮やかに描き出す舞台づくりであって、人情をより際立たせる仕掛けであるように思えてくる。